一級建築士事務所 栗原健一建築事務所


第3回   設計者を選び設計者と共に設計開始


▲栗原設計住宅例-1(外観)


▲栗原設計住宅例-2(内観)























































 第3回目講座は、「家づくりでの重要な選択」がテーマとなります。
 土地の手当てがついて、いよいよ家を建てようとする方は、その次のステップとして家づくりプロジェクトの依頼先として次のいずれかの相手を選ぶのではないでしょうか。
 1)ハウスメーカー。
 2)工務店(ハウスメーカーとは呼べない中小会社)
 3)設計事務所

 ここで、設計事務所以外の2者への依頼が、決して不適当だと言おうとしているわけではありません。それぞれ、メリット、デメリットがあります。
 まず、1)のハウスメーカーですが、木造在来工法、木造ツバイフォー、鉄骨系構造等があり、フル注文住宅若しくは工場生産によるユニット方式等、各社が様々な提案を用意しています。大資本のハウスメーカーは研究所を備え、日々住宅の質を高めるための努力を続けているところもあります。工場生産の比重が高いことは、品質の安定性に寄与します。住宅展示場のモデルハウスであらかじめ出来栄えを事前に確認できます。価格も、把握しやすい仕組みになっています。
 「ハウスメーカー」の資本力を生かし、われわれ設計事務所では太刀打ちできないようなデザインや高度な耐震技術を取り入れているケースもあります。
 デメリットは、宣伝費や営業費用が建設コストに含まれることや、実際の現場での工事担当者(又は下請け業者)によるバラつきがあること、工事監理が有名無実化しがちなことなどが挙げられます。

 次に2)の工務店ですが、設計事務所経由でなく直接工務店に依頼する場合、多くは木造在来工法、木造ツバイフォー工法等による注文住宅が多いものと思います。知り合いであったり、地元の方であったり、比較的なんらかの縁故でお願いするという方も多いのでしょう。ここでは大会社でない中小の工務店を取り上げていますので、社長さんの人柄で選ぶケースもあるかもしれません。そういう社長さんは、依頼主と気があったりすると、この建て主さんのためにいいものを造ろうという熱意をもってくれたりします。地元の工務店さんなら、何かというとこにすぐに来てくれるという点も心強いところです。
 デメリットは、自社で設計できると体制を持っているところばかりではなく、その場合は設計を外注されてしまうことと、ハウスメーカー同様、工事監理の有名無実化が挙げられます。工事監理そのものを理解していない工務店もあります。

 このようなメリットデメリットを理解し、デメリットよりもメリットが大きいと判断して、ハウスメーカーや工務店など設計事務所以外の選択をすることは、それはそれであるかもしれません。
 しかし、今回講座の力点は、まず初めに設計事務所の門をたたき、設計事務所に設計を依頼することの重要性と意味をご紹介することなのです。

 上記2者のデメリットにあげた「設計の外注」を考えます。
 住宅は、建築士の資格が無くても規模により設計が可能ですが、いずれにせよ誰かが設計しなくてはなりません。私たちが設計事務所が設計する場合、かならず建て主と直にお会いし、お話を聞き、その依頼内容をしっかり伺い、その要望とコストや法的制限などの条件をスリ合わせながら作業を進めていきます。特に大都会の市街地など法的条件が厳しいと展示場のモデル住宅と同じには設計できないこともあり、やはりその土地に合わせた設計を行う必要があります。
 そこで、重要なのが、実際に設計する建築士等と建て主が直接打合せが出来るかということです。工務店が設計を外部の設計事務所に外注する場合、建て主が必ずしもその建築士等と会えないケースがあります。営業マンであったり、設計を行わない別の技術者が相手で会ったりして、間接的な意思の伝達になります。これで本当に建て主の意を汲んだ設計ができるかという点です。
 「工事監理者」は建築主が選任することになっています。建て主からの直接の依頼でない者を監理者として選任し役所に届けることは形式的には可能ですが、建て主から直接選任されることに意味があるのです。工務店側で委託された建て主が直接知らない工事監理者が、同じ側の施工を厳しくチェックできるのかとうところが非常に大きな問題です。
 
 2)の工務店に注文住宅を依頼するなら、はじめに設計事務所に設計や工事監理を委託し、その事務所を通じて希望する工務店に工事を行わせる方法も取れますが、特に工事監理ではこの方がはるかに適切な仕事が出来ます。


 さて、話を本題に戻して、初めから設計事務所の門をたたき、設計者を選ぶ方法について述べましょう。

 設計者の選び方も重要です。
 初めから設計事務所の門をたたいた場合は、ほとんどが実際に設計担当する建築士と会うことが出来ますので、建て主さんの眼力により本当に信頼にたりる建築士かどうかを見極めてください。設計事務所は俗にいうセールストークはあまり流暢ではありません。しかし、その設計に対する熱意や誠意は言葉の端端に表れてくると思います。
 設計事務所に依頼したという方の中には、建築雑誌を研究しその作品にほれ込んで建築士を選んだというケースもあります。その建築士の住宅に関する哲学、ポリシーを聴いて、納得してから依頼すればよいでしょう。(私の事務所のコンセプトは、本ホームページに掲載していますのでご覧ください。)
 設計料につても、誠実な設計事務所なら国土交通省の定めたガイドライン的な「平成21年度告示15号」等を利用して、明瞭な経過を示した見積もりを作成してくれるはずです。ちなみに、設計料が安いことは必ずしも建て主にとって良いことではありません。これから行う作業に対する報酬ですから、あまりに安い額というのは、どこかの作業が通常よりも省かれてしまう危険性があるからです。国土交通省のこの告示はそのようなことを防ぐためにも定められているのです。
 

▲栗原設計住宅例-3(模型)
 ※基本計画時に作成



▲栗原設計住宅例-4(3Dパース)
 ※基本計画時に作成








 「この人だ」という建築士、ここなら信頼できそうだという設計事務所が決まりましたら、前述の設計、工事監理や確認申請業務などの見積もりを取り、きちんと説明を受け報酬額の詰めを行って設計等業務の契約を行います。契約の前に不動産業者と同様に「重要事項説明書」を建て主に提示することも法律で定められていますので、その内容を確認します。

 契約が済んだら、建築にあたっての条件を箇条書きにして優先順位をつけて設計事務所に渡す方がよいでしょう。当然、工事費の予算も提示します。
 その条件のもと、設計事務所として基本案(基本設計図やパース等)が作成されます。この基本案について設計者から説明を受け、納得がいくまで打合せしてください。ただし、ある程度は仕方がありませんが、途中で基本的条件を変え、設計事務所のやり直し作業、手戻り作業が増え無いようにしてください。多くの建築士は、ひとたび依頼を受けたら業務報酬のことは頭から外し、建て主にとって如何に理想的な住宅を造れるかということに没頭します。つまり、使命感に燃えているのです。ところが、本来建て主としてしっかりと定めるべき基本方針や条件の詰めが甘くてせっかく作った案が生かせない物であるということになると精神的落胆も多くなります。
 最初のコンセプトの定め方が大事ということになります。

 基本案のやりとりを何回か続けこれを了承しましたら、次の段階として実施設計に移ることになります。実施設計は、工事が行える図面を作ることで、工事費見積もりもこの図面を基におこないます。

 基本案を了解後に、設計条件を変更することは極力避けてください。実際に請求されるかどうかは別として、設計契約上では報酬追加要素となっていまいますので、注意が必要です。

 ひとつご理解いただきたいのは、さまざまな条件・制約から建て主としての希望が必ずしも全てかなえられない場合がありえます。この場合、優先順位が下位の物は、切り捨てなければなりません。もちろん、可能な限り希望を取り入れる設計を進めるように努力しますが、特に二律背反的な要素はどちらかをあきらめなくてはならない状況がでてきます。ここは、迷うだけ迷って、そのあとで冷静にいずれかを選択してください。欲張ると、かえって多くを失うこともあります。
 この場合、設計者としては、判断に必要な情報を集めそれを説明します。その選択は建て主が行うことが本筋と考えます。そして、決定した以上、責任が生まれます。この選択を設計者任せにするのもいいですが、任せたら任せた責任がありますので、後でご自分の意向と会わないからと言って責めることは理にかないません。自分で選択する貴重な権利を放棄してしまうのはもったいないことです。言いにくいことですが、建て主として費用を出すのだからといって、建て主として持つべき責任がなくなるのではないことを、ご理解ください。
 建て主と設計者が、それぞれの責任を自覚し分担し合い、相互信頼の上で共同作業としての設計を進めることが、良い家造りを果たす重要な秘訣と言えます。


次回(№4)に続く


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